1995-96年に2760地区(愛知県)より5400地区(アメリカアイダホ州)にロータリー青少年交換留学生として派遣され、さらには2008-09年度に東京中央ローターアクトクラブ (現 東京銀座ローターアクトクラブ) の会長を務め、現在は一般財団法人日本民間公益活動連携機構に勤務している山下裕子さんにお話をお伺いしました。
現在のお仕事や近況について教えてください。
2022年から一般財団法人日本民間公益活動連携機構に勤めています。当機構は、休眠預金(10年以上入出金等の取引がない預金等)を活用し助成等を行っている団体です。休眠預金は、行政では対応することが難しい社会課題を解決するために、民間の団体が行う活動に活用されます。多様なステークホルダーと連携しながら、事業の創出と普及に取り組んでいます。
青少年交換に参加したきっかけを教えてください。
高校1年生の時、教室に青少年交換プログラムの案内が貼ってあったことがきっかけでした。幼い頃からいつか留学したいと思っていましたので、その機会が思っていたより早く訪れたと感じ、迷わず応募しました。高校2年の夏に青少年交換留学生として2760地区愛知県から5400地区アイダホ州に派遣していただきました。
留学は随分前であり1年という短い期間でしたが、10代でのあの経験があって今の自分があると言っても過言ではありません。初めての海外、見知らぬ土地でホストファミリーと暮らし、現地の同世代と学生生活を過ごした異文化体験は私の礎となっています。価値観を変えてもらった一例ですが、同じ市内に派遣されたドイツからの青少年交換留学生が、私のホストファミリーの家に遊びに来た時のことです。食事の際に、私が日本の慣習のことを話すと彼は「Strange」と言いました。否定されたような気分であまり良い気持ちではなかったところに、ホストマザーが「それはStrangeではなくDifferenceよ」とウインクしながら私たちを諭してくれました。違いを受け入れる、その違いを楽しむ、ということを学んだ瞬間でした。今でもそのマインドは私の中に生きています。


ローターアクトに参加したきっかけを教えてください。
帰国後は進学や就職でロータリーとの接点は薄くなってしまったのですが、かけがえのない経験をさせてくださったロータリーに恩返ししたい思いはありました。上京して暫く経った頃、東京銀座ロータリークラブ事務局の天野さんとご縁があり、東京中央ローターアクトクラブ(現東京銀座ローターアクトクラブ)を紹介していただきました。初めてローターアクトの例会に参加した時の卓話者が、聖路加国際病院の日野原重明先生で、東京、銀座はすごい!と衝撃を受けたのを覚えています。
何度か例会に伺い、2004年に入会しました。最初は参加者の一人として先輩たちについていくだけでしたが、2年くらいして少しずつローターアクト活動に対して意識が変わっていきました。活動についてメンバーと議論していく中で、継続した奉仕活動をしたいとの意見にまとまり、まずは私たちを受け入れてくださる福祉施設を探しました。最終的に渋谷区広尾にある児童養護施設「福田会」の中村園長とご縁ができました。
ちょうど35周年記念事業をするタイミングだったので、式典の中でメンバーのスキル等をロットにしたオークションを催し、ロータリアンの皆様に落札していただき、その収益を福田会に寄付しました。その一部を使って子どもたちとマザー牧場に遠足に行ったことから福田会との活動が始まりました。園内で開催する夏祭りで綿菓子や輪投げのお店を出したり、バザーへの品物収集や当日の販売のお手伝い、グラウンドの草刈りや倉庫の片付けなど、職員さんの手が足りていないことを補えるような活動を心がけていました。

会長を務める前年に、中村園長からヒマラヤ小学校のマネジャーの吉岡さんとのご縁をいただきました。海外での奉仕活動に対して個人的にとても関心があったので、メンバーと共に一度お話を伺う機会を設けました。浅はかですが金銭的な援助が求められるのかと思っていたところ、吉岡さんが開口一番に仰ったのは「子どもたちに会って、夢を与えてあげてください」との一言でした。
吉岡さんたちが作ったヒマラヤ小学校は、ネパールのカトマンズ市郊外の小さな村にある貧しい子どもたちのための学校で、社会に根強く残るカーストの中でダリットと呼ばれる「不可触民」に属している子も多く学んでいます。子どもらしく遊ぶことや親に甘えたい気持ちを抑えて、幼い妹や弟の世話や畑仕事を手伝う暮らしをしている子どもたちに学ぶ場をつくり、将来に大きな夢を描き自らの足で立って歩いて行けるよう、楽しく夢のある学校づくりに取り組んでいらっしゃいます。この理念に心が震え、必ず訪れたいと強く思いました。
メンバーとの意見交換を重ね、クラブの活動としてヒマラヤ小学校と関わっていくことを決めました。まずは私たちができることを探すことを目指し、数人で2泊3日のヒマラヤ小学校訪問弾丸ツアーをしました。子どもたちは日本から来た私たちを大歓迎してくれ、まるでアイドルになったかのような気分でした(笑)。ドッジボールをしたり、一緒に歌ったりして遊び楽しい時間を過ごしただけではありましたが、子どもたちの明るく眩しい笑顔は瞼に焼き付いています。見たもの、聞いたこと、感じたことのすべてが想像を超える初めてのことだらけで、頭と心の整理が追いつかず、帰りの飛行機で眠れませんでした。
その後も後輩たちが現地を訪問するだけでなく、日本からできる支援の形を考えて活動を拡大し、15年以上経った今でも交流が続いていると伺いました。始めた一人として驚きと共に東京銀座ローターアクトクラブのメンバーを誇りに思います。

ロータリーに関わって得た学びが今の仕事にどのようにつながっていますか?
社会人としてこれまで、政治(議員秘書)、ビジネス(外資系コンサルティング会社で秘書及び広報等)、ソーシャルセクター(現職)と、異なる業界で働いてきました。いずれの転職時も、自分の経歴で需要があるかどうか不安はありましたが、不思議と新しい環境に対する怖さはありませんでした。青少年交換留学生として飛び込んだ未知の世界に比べたら、と思えたからでしょう。また、今回ソーシャルセクターを選択したのもローターアクトでの経験が活きています。転職活動をする中で、ふいにソーシャルセクターに興味が湧き、当時の活動を思い出していました。中村園長や吉岡さんのように現場で支援する関わり方ではなく、「人助けをしている人を助けたい」という思いに至りました。その後、現職のご縁をいただきました。
今後の夢について教えてください。
夢と言えることでもないのですが、「周りの人の夢を叶えるお手伝いのできる大人になりたい」と思っています。遡ってみると私の憧れや希望は周りの大人がご縁をくださり叶えてくれました。今度は自分がそんな大人になれるよう精進していきたいです。
これからこの記事を読む若い後輩たちへのメッセージやアドバイスをお願いします。
色々なご縁や出会いを楽しんでいただきたいです。同世代や同じ価値観の人とだけではなく、多世代、多様な人、異文化に接することで自分を広げると思うからです。私の場合、ロータリーを通じてそのご縁をいただきました。青少年交換留学からローターアクトに、福田会からヒマラヤ小学校に。そして、奉仕活動の経験から今の仕事につながっています。
ご縁はお互いの人生のフェーズが変化することで途絶えてしまうことがあるかもしれませんが、本物のご縁であれば時を経て再び繋がると思っています。ローターアクトの仲間ともあの頃のように会えてはいませんが、先日10年ぶりにローターアクトの同期が連絡をくれました。そこから東京銀座ローターアクトクラブの例会へ卒会以来参加させていただきました。今回のインタビューも当時お世話になっていた東京銀座ロータリークラブの安藤さんと久しぶりにお会いしたことがきっかけです。
現在の仕事でも、再びのご縁が巡ってきています。議員秘書だった頃に関わっていた役所の方が休眠預金担当部署の関係者になっていたり、休眠預金議連のメンバーの国会議員の秘書をローターアクトの後輩が務めていたり、前職の同僚が休眠預金事業をしている団体にボランティアしてくれる等々、これまで自分が携わった世界の人やコトが、不思議に今と繋がり、ご縁の点が増えて輪になっているような感覚ですごく嬉しいです。どう紡がれていくかわからないので、若い頃に多様なご縁をたくさんつくっていただきたいと思います。
また、ローターアクターの皆さんには、ぜひ会長になることをお薦めしたいです。会長という役職は、メンバーの一人として活動する以上に自分自身を成長させてくれるからです。多様な年齢層や属性が集まるローターアクターをまとめ組織マネジメントすること、会長としてロータリーの皆様や外部の方と接し、その立場でしか見えないことがあることを知ることを20代で経験できるのは非常に価値があります。上手くいかないことや慣れないことも体験し、自分を見つめなおす機会にもなりました。私は周りの人(仕事でいえば組織やボス)がやりたいことを実現する参謀のような役割の方が性に合っている、ゼロイチを生み出すよりもあるものを広げることに創造性が発揮されるなど、得手不得手にも気づきました。任期は1年であっという間に過ぎますが、以前と以後では視点も視座も変わったと思います。若い頃に仕事以外に打ち込めることがあったこと、仲間と過ごした濃い時間は財産です。是非挑戦していただきたいと思います。

![]() 山下裕子 東京中央ローターアクトクラブ (現在の東京銀座ローターアクトクラブ)出身。 2008-09年度東京中央ローターアクトクラブ会長。 1995-96年に2760地区(愛知県)より5400地区(アメリカアイダホ州)にロータリー青少年交換留学生として派遣。 現在は一般財団法人日本民間公益活動連携機構に勤務 インタビュアー:安藤 重幸(東京銀座ロータリークラブ) Rotary Family Voice編集長&ロータリーファミリー支援委員会 委員長:杉浦 藤一郎(東京あけぼのRC) |