RYLA

DO WHAT YOU LOVE, LOVE WHAT YOU DO 〜好きなことで生きていく、起業という選択肢〜

2014-15年度RYLA(Rotary Youth Leadership Awards)に参加し、現在は、マインドフルネスコーチとして活躍されている川井千佳さんにお話を聞きました。お仕事の内容から、起業に至ったきっかけ、ロータリーとの繋がりについて語っていただきました。

現在のお仕事や活動についてお聞かせください。

企業や学校向けに、マインドフルネスやアンガーマネジメントなどの法人研修をさせていただいています。私がマインドフルネスを仕事にしようと思ったのは、30歳の時に遺伝性の癌を発症し、一ヶ月に渡り入院をして手術をしたのがきっかけでした。その三年後、母が同じ病気で亡くなり、自身の死をとても間近に感じました。そこで、できる対策について、担当の医師に相談するも、西洋医学では起こった後の対処しか出来ないことがわかり、自分で日常から予防する方法はないかと、自ら国内外で学び始めました。その時に、「ストレスこそが病気の発症の源である」ということが分かり、東洋医学やマインドフルネスの考え方に出会いました。マインドフルネスは大学時代に学校で学んでいたのですが、その魅力を改めて実感し、自分にとって必要で大切なことで社会の役に立ちたいと思い、起業を決めました。

それまでの私は、学習院大学文学部仏文科を3年次で中退し渡米、カリフォルニア州にあるUCLAでジェンダーやジャーナリズムを学びました。卒業後は、株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、中高生向けのキャリア教材開発やワークショップ、留学プログラムを作る仕事に携ってきました。市場規模の大きい会社で自分の企画制作したものが12万人以上に届くような仕事はとてもやり甲斐がありましたが、病気をきっかけに自分の残りの人生の使い方を真剣に考えた結果、自分のやりたい事をビジネスにしてみたいと思うようになり、副業を経て独立起業しました。

退社後、メディテーションビジネス視察のためNYとLAへ
インドネシアでヨガの国際資格を取得

マインドフルネスとはどのようなものですか?

ストレスを低減したり、感情をコントロールする手法として、医療現場や犯罪者の更生などにも活用されるメンタルトレーニングです。近年では健康経営・ウェルビーイング・メンタルヘルス対策として、企業の人材育成や組織開発にも活用されています。集中力・記憶力・感情調整力の向上などに効果的で、継続することで脳の構造そのものを変化させ、ストレスに強い脳に変えていくことが期待できます。一部の企業やアスリートチームでは、メタ認知(自分のことを客観視するスキル)の力を高めるトレーニングとしても注目を集めています。

マインドフルネスでは、呼吸に注意を向けて、自分の状態に気づきを深めていく練習をしていきます。
例えば、日常でイラッとした時、仕事でトラブルがあった時、常に自分の状態を客観視できるようになるので、呼吸法をしてみたり、その場を離れたりなど、自分で自分を整えるための行動を選択することで感情のコントロールが出来るようになります。

私自身、かつては感情に振り回されやすく、些細なことで落ち込みやすい性格だったのですが、マインドフルネスを続ける中で、冷静で穏やかな状態の自分を保てるようになり、困難なことに直面しても、すぐに自分で自分の状態を立て直すことができるようになりました。

さらに、マインドフルネスがビジネスで注目を集める理由として、EI(Emotional Intelligence:感情知性)を高めるという点があります。アメリカの心理学博士であるダニエル・ゴールマン氏が提唱するEIとは、「自分と他人の感情を観察して見分け、その情報を使って思考や行動を導く力」のこと。
働きやすい心理的安全性のある職場作りやAIに代替されないサービス開発において、EIは今後ますます注目されていくでしょう。そんな観点からも、企業の中間管理職の方や管理職になる層の方々へのリーダーシップ研修として、マインドフルネスを取り入れていただくことも増えてきています。

世界トップクラスのアスリートも実践するマインドフルネス(ラグビーW杯)

マインドフルネスで感情のコントロールができるようになるということでしょうか?

はい、今この瞬間、自分の内側で起こっていることに常に気がついていれば、ネガティブな出来事に振り回されたり、必要以上に落ち込んだりする事を避けられるようになっていきます。

例えば、電車で足を踏まれた時にひどく怒る人と「こういうこともある」と受け流せる人と、何が違うかというと、無意識の反応に振り回されているかどうかです。良いことも悪いことも想定外に起こるのが人生ですから、一瞬一瞬の自分に気づきを向けて自分で自分の状態を整えられると、自身も周りも心地よく過ごせるようになるので、より毎日が生きやすくなります。

また、自分自身の感情を無視したり抑圧したりすると、心身の不調に繋がったり、うつ病になることもあります。例えネガティブな感情であっても、そんな感情の声もちゃんと気づいて受容してあげるということがマインドフルネスで最も重要な考え方です。

特に、「体は何を感じているのか」「思考は何を考えているのか」「心は何を感じているのか」という身体感覚・思考・感情の三つのレンズを活用して自身を観察することが大切で、その三つのレンズを通して自分の内側で起こることに注意を向けると、冷静な判断をし易くなり、普段見えている世界がもっとクリアに見えてくるようになります。この三つのレンズの感覚は、瞑想でトレーニングを積むことで培われていきます。瞑想で心と体を整え、身体感覚・思考・感情に自分で気づいていくことができると、自分で感情や思考を最適化することもできるようになります。

最近顕著なのが、男性の受講者が増えていることです。マインドフルネスの一要素であるセルフコンパッション(自分を受容する力)は特に需要があります。男性ほど、仕事や収入、成果のプレッシャーがあったり、弱音を吐くことを許されなかったり、男としての社会的役割に疲弊している傾向にあるので、セルフコンパッションの考え方に救われたとおっしゃる方は多いですね。

桜美林大学でのマインドフルネスxキャリア講座
上智大学でのマインドフルネス講座
東洋大学でのThe Treasure Inside Yourselfワークショップ

日本の大学を中退され海外の大学に進学されたとのことですが、留学で得たことはありますか?

中高一貫女子校育ちで、親は「いい大学いい人生」という昭和的価値観だったので、とりあえず学習院大学文学部仏文学科に入学しました。しかし、いざ取り組んでみると残念ながら1ミリもフランス語に興味が湧かなかったのです。それでも好きになるよう努め、パリへの短期留学までしてみたのですが、人種差別など不快な経験で学びへのモチベーションが下がってしまいました。授業より働くことの方が当時は面白かったため、大学時代は週の大半を様々なアルバイトをして過ごしていました。

でも、「同じお金と時間があるのならもっと自分の興味のあることに使った方が良いのでは」と疑問を持ち始めていた頃、就職活動が始まりました。一応、大手銀行の内定を貰いましたが、あまりピンときておらず、本当に自分の好きなこと・やりたいことは何なのか模索する日々でした。

そんな時、地元のバレエ教室が一緒だった先輩がアメリカの大学へ進学され活躍されていることを知り、私も大学を中退して、いつか行きたいと思っていた留学に行くことを決心しました。
留学先のUCLAでは、「やりたいことには全部チャレンジする」と決めて、学生団体を運営し多様な人種のメンバーと一緒にイベントを企画したり、日本文化を現地で広める活動をしてきました。
助けてくれる人がいない異国の地で、とにかく全て自分で交渉していかなくてはならない。学費や家賃などのお金の管理、トラブル対応、インターン、学校の成績すらも教授との交渉が当たり前の世界で、色々苦労はありましたが、主体的に自分から動いたことで、目標や夢が次々叶っていったことが大きな自信になりました。「自分の価値は自分で創る」ということを留学を通して体得したのは、人生の財産です。

起業については、「とにかく小さく始めてみる」に尽きると思います。私自身、会社員時代に知人の働くシェアオフィスの一角を借りて、10人くらいの小さなワークショップを開くことから始めました。普通の会社員でお金がかけられなかったので、バナーもサイトも自分で手作りし、知り合いに声をかけて、友人に手伝ってもらい、地道にコツコツ継続。半年くらいパラレルキャリアで、発信やイベントを続けたところ、徐々に仕事のお声がかかるようになり、独立へと軸足を移すことにしました。

シェアオフィスのイベントスペースで行った1回目のイベント①
シェアオフィスのイベントスペースで行った1回目のイベント②
アメリカの大学で入っていた国際ボランティア団体での活動風景

RLYAやロータリーのことに関して感じたことを教えてください。

RLYAには8年前、社会人3年目に参加しました。RYLAに参加して良かったのは、普段知り合わないような少しユニークな人たちと出会えたことです。今でもたまに連絡を取り合っています。
彼らが世界で活躍しているのを見ると、自分も頑張ろうという気持ちになりますし、経営者として会社の規模を拡大しているRYLArianの背中を見るのも励みになったりしています。

また、ロータリーの方々と一緒に集まる機会があった時、とあるロータリアンの方が「君たちもこういうところに自分の後輩を連れて来れる人になりなさい」というお話をされて、とても素敵だなと思いました。自分の目先のビジネスだけでなく後輩の育成にも貢献していく、背中を見せていく行動がとても印象的でした。

夢を見せてくれる方がいないと、自分の描けるビジョンや夢もこじんまりしてしまうので、こうして良い刺激をくださる方がいる事で、憧れの気持ちがモチベーションに変わっていくなと感じています。そして、自身もいつかロータリアンの方々のように憧れられる存在になりたいと思っています。

2020年城西ロータリークラブでの卓話

これからロータリーのプログラムに関わる後輩たちへメッセージをお願いします。

私は大学を中退して突然アメリカに行ったり、真面目な方の多いベネッセの中でもやや型破りな異端児タイプだったりと、こちらに掲載されているような素晴らしい方々のような人物像ではないので恐縮なのですが、日々大切にしていることをお伝えしたいと思います。

人生は一度きりなので、 “DO WHAT YOU LOVE”「自分が心からワクワクすることを仕事にする」ということを大切にしています。人の一生は長いようで短い。退屈な仕事や自分に合わない仕事で文句を言いながら鬱々と過ごすよりは、思いきって好きなことに挑戦してみると、人生は輝きに満ちていきます。「毎日自分にときめき、仕事にときめき、人生にときめく」自身もそんな人でありたいし、働く人のメンタルヘルスやライフデザインをサポートする仕事を通して、社会の中にそんな人々を増やしていけたら良いと思っています。

もう一つ大事なのは、“LOVE WHAT YOU DO”「自分が今やっていることを誰より愛すること」。
自分のやっていることを「どうしたらもっと楽しく、より良くできるかな」と探究することが大切だと思います。私も自分の好きなことを仕事にしていますが、どんな仕事をしていても、飽きやダレは生じてきます。その時に自分が仕事を始めたきっかけや初心を思い出したり、常に新しいことに挑戦したり、違うジャンルの学びにもアンテナを立ててみるなど、自分のやっていることをアップデートし続けること。自分が自分に飽きずに、やっていることを好きになる努力も同時に大切だと考えています。

ロータリーは親が立派な方が多いので、もしかしたら親や周りの思う「いい子」の枠組みに縛られてしまうこともあるかもしれませんが、もっと自由に自分のキャリアを考えてみてもいいのではないでしょうか。私たちは、自分で自分の人生を選択することができる。自分の心の声に素直に、少しの勇気を持って、たった一度の人生を思いっきり楽しんで欲しいと思います。


 

川井 千佳 Chika Kawai
2014-15年度 RYLArian
スポンサークラブ:東京西南RC

カリフォルニア大学ロスアンゼルス校社会科学部卒。学習院大学中退後、渡米。大学時代を過ごしたLAで、ヨガとマインドフルネスに出会い、その心身を整える効果に魅了され学び始める。 ベネッセコーポレーションにて、中高生向けの教材開発やワークショップ、留学プログラム企画などの仕事をする中、学びに向かう力の土台となる自己肯定感にマインドフルネスが大きく影響すると実感。 現在は独立し、マインドフルネスを教育の場に広めるべく活動中。これまでには、海外の有名アスリートチームや寺社、外資系企業・国内企業など3,000名を超える方への一般・法人向け研修を担当。 個人でも、ビジネスパーソンのウェルネスコミュニティIntention Tokyoを主宰。

ロータリーファミリー支援委員会 委員長:青柳 薫子(東京広尾RC)
インタビュアー:玉村 秀樹(東京調布むらさきRC)
Rotary Family Voice 編集長:根岸 大蔵(東京城西RC)



RYLA(Rotary Youth Leadership Awards)とは?
RYLAのイベントは、14〜30歳までを対象として、地元ロータリークラブやロータリーの地区によって開催されます。地元のニーズに応じて、1日のセミナーから数日間の合宿まで、さまざまな形式が取られます。最も多いのは、さまざまなトピックのプレゼンテーション、アクティビティ、ワークショップなどを含む、3〜10日にわたるイベントです。
参加対象はそれぞれのイベントによって異なります。リーダーシップの力を引き出すことを目的とした中学生対象のイベントから、創造性のある問題解決力を養う大学生対象のイベント、ビジネス倫理について学ぶ若い社会人対象のイベントなどがあります。
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