ロータリー財団奨学金

すべての子供たちが初等教育を受けられる社会の実現を目指して

2020-21年度にロータリー財団奨学生として、英国ロンドン大学教育研究所(IOE, UCL)に派遣され、現在は、JICA(独立行政法人国際協力機構)ケニア事務所で勤務している鷹觜 悠史さんにお話を伺いました。

現在のお仕事や活動についてお聞かせください。

私は、東アフリカのケニアにあるJICAケニア事務所にて教育・少年少女保護・ジェンダーの企画調査員(Project Formulation Advisor)として働いています。3つの分野に関わるプロジェクトに関してケニア政府、日本国大使館、JICA本部、日本側の各種省庁と連携して、現地ニーズにあったプロジェクトを新規企画し、立ち上げるのが私の主な業務です。通常、援助機関ではプロジェクトの1サイクルを約3年から5年と区切り、現地政府との対話を通して、予算をつけ事業を展開します。JICAではプロジェクトが一旦始動すると、主に各分野の専門に特化したJICA専門家(以下、専門家)がプロジェクトを展開します。企画調査員はプロジェクトが始動した後、専門家を支援し、本部や先方政府との連絡調整を行いプロジェクトがスムーズに動くように働きかけます。来年2023年10月までが私の任期で、ケニアのナイロビに赴任し、もうすぐ1年になるところです。

ケニアでの教育プロジェクトの一つの柱は、Jomo Kenyatta University of Agriculture and Technology(JKUAT)大学への技術協力支援です。この大学はケニアで中心的な役割を果たす農工大学で、近隣諸国からも留学生を受け入れ入れています。特にAU(アフリカ連合)が支援をしているPan African University Institute for Basic Science, Technology and Innovation(PAUSTI)ではアフリカ諸国から留学生が集まってきており、JICAもプロジェクトを通してPAUSTIの学生を支援しています。本プロジェクトは、日本政府がJICAを通じてアフリカで科学技術イノベーション(STI)分野の産業人材育成を目標としており、プロジェクトの柱である、研究活動支援、機材の供与、人材育成、諸外国とのネットワーク形成が進むように支援を行っています。その他の教育プロジェクトでは、昨年度末まで「CEMASTEA 調査研究能力強化を通じた現職教員研修の質向上プロジェクト」にも関わり、ケニア側の協力機関であるアフリカ理数科・技術教育センター Center For Mathematics, Science and Technology Education in Africa(CEMASTEA)とともに、授業研究という手法を用いて、学校現場に根差した授業改善を目指し理数科教育の先生たちの育成トレーニング支援を行っていました。

少年少女保護とジェンダーに関しては、現在プロジェクト立案に携わっています。ジェンダーの案件では、Sexual and Gender based Violence (SGBV)など主に女性に対するジェンダーの問題を通して女性支援に関わるプロジェクトを展開予定です。一方、少年保護に関しては、コロナが原因で、世帯収入が減ったり、子供たちが学校に行けなくなったことにより、少年少女の犯罪が増え続けているという背景を受け、罪を犯した少年少女たちが地域のコミュニティへ再統合できるように中央政府や地方政府へ働きかけ、再統合のロールモデルを作ることを目的としてプロジェクトを展開予定です。

私がJICAの仕事に出会ったきっかけは、JICA海外協力隊(以下、協力隊)の経験やJICA本部での勤務経験も大きいですが、直接的には大学院在学中に「アフリカ」「教育」で仕事を探していたことによります。当時はユニセフでの仕事にも魅力を感じましたが、こちらの仕事を選んだのにはケニアという新たな国で教育に携わりたいと思ったこと、教育以外のガバナンス分野にも興味を持ったことによります。私はこれまで日本の小学校の教員として働いた後、協力隊でウガンダにて2年小学校教員として活動し、JICA本部で勤務をし、さらに学びを深めるべく大学院留学準備中にロータリー財団奨学金を頂き、2020-2021年の間、ロンドン大学 教育研究所(IOE, UCL)で1年学ぶ事ができました。

教育分野に携わることになったきっかけは、学部生時代にヨーロッパへ自転車旅行に出かけたことが大きいです。小中学校を通して、祖父の戦争体験を聞いたこともあり外の世界に関して漠然とした興味がありました。大学では国際開発を学び、所属ゼミでは、海外経済協力基金(OECF)や世界銀行ワシントン本部での勤務経験を有する後藤一美教授(法政大学名誉教授)より途上国開発について学びました。ゼミの活動の一環で、大学3年生の時、インドネシアに研修旅行で訪れたり、個人旅行でタンザニアへ旅行したりするなど、ゼミを通して開発途上国に次第に興味を持つようになりました。

大学3年時インドネシア研修旅行(2列目一番左)
キゴマのUNHCRの職員の方と(タンザニア)
モシにあるエイズ孤児の子供たちと(タンザニア)

今振り返るとタンザニアを訪れた二十歳頃「アフリカで将来何かやりたい」と奮い立った気がします。将来のためにも、英語力向上の必要性を感じ、大学4年に進級のタイミングで、同級生たちが就職活動する中、大学を1年休学し、自転車でトルコからパリまでのヨーロッパ周遊旅行に出かけました。多くの子供たちと触れ合い、子供の魅力に触れ、将来は子供と関わる仕事をすることに決めました。帰国後は、大学に復学し、卒業論文ではフランスの移民政策を取り上げました。大学卒業後は通信教育で初等教育に関して学び、塾教師や学童のアルバイトを掛け持ちしながら、2年半かけて念願の教員免許を取得しました。その後、産休代替教員として東京都の公立小学校で3年ほど勤務をしました。

学生時代のヨーロッパ周遊旅行によって、英語へのある程度の自信はつきましたが、英語が全く通じない国々を通過する途中で、沢山の子供たちに助けられることが多々ありました。東欧の国々で子供たちと「かくれんぼ」などで遊んだことが印象深いです。私自身は末っ子なのでそれまで年下の子供の面倒を見る機会もなく、どちらかというと子どもは苦手だと感じていましたが、旅先で無邪気な子供たちと遊ぶうちに、子供たちとのふれあいの楽しさ、面白く感じている自分に気づきました。それと周遊旅行で得た事は、中学レベルの英語力でも、なんとなくでも聞けて喋れれば通じるし、実践につながるということがわかりました。コミュニケーションは語学だけが全てというわけではないことと、語学は話さなければならない環境に置かれればある程度は上達することもわかりました。年を重ね、仕事上での専門性や経験が多く求められるようになった今、あの学生時代の1年間の周遊旅行で、ヨーロッパの国々をめぐり、出会った人々の文化や考え方を体感できたことが、私自身の視野が広げ、新たな考え方を知る良いきっかけになったと感じています。

ヨーロッパ自転車旅行(ノルウェー)
ヨーロッパ旅行で出会った子供たち(ポーランド)

ウガンダでのボランティア活動では、小学校の教員として活動していたため、現地とのつながりも濃く、子供達と直接触れ合えることで変化や手応えを感じとれていましたが、援助機関では、私たちの活動が結果にどう結びついているか、直接の変化は感じ取りにくいです。現在の仕事は、政府機関の方々との交渉や連携に自分自身の経験を活かして関われる事で、仕事のやりがいや面白さを感じています。またアフリカという途上国と日本では物事を進めるスピード感が違うので、文化ギャップにも日々奮闘しています。ケニアでは物事がなかなか進まないこともありますが、先方政府にプロジェクトの実施について丁寧に説明し、合意に至るまで対話を続けることは大切な私の業務です。一つずつのステップを乗り越え、実際に私の関わったプロジェクトが前進した時は、なんとも言えない喜びと達成感を感じる瞬間です。

協力隊の配属先の小学校の子供たちと(ウガンダ)
配属先で支援していた小学校のお母さんたちと(ウガンダ)

ロータリープログラムに応募したきっかけを教えてください。

学費が高額であることから大学院進学にあたり、資金面で奨学金が必要でした。実際、私が学んでいたコースでも、多くの留学生が奨学金を利用していました。ロータリー財団の奨学金に応募したきっかけは、ロータリー財団の奨学金を利用したことのある方から、ロータリー財団の奨学金プログラムについて教えてもらい理念に共鳴したためです。私が大学院で学びたい分野がロータリー財団の重点分野の一つ(教育)であり、協力隊のボランティアの経験を評価していただいたことも奨学生に選ばれた一つのポイントだったと振り返ります。大学院に関しては、「アフリカ」「教育開発」を学べるところを中心に探し、過去に大学院を卒業した方から話を聞くなどして最終的にUCLに決めました。コロナ禍での留学だったため、授業はすべてオンラインになりました。大学院では、協力隊の経験を元に、ウガンダでは公教育の無償化が行われているにも関わらず、多くの子供たちが小学校に通えていない実態について「なぜ小学校へ通えないのか」ということについて理論的に学べたのは大変有意義でした。最初の9ヶ月は日本から時差のあるロンドンを繋いでリモート授業を受け、翌年の6月にロンドンへ行き修士論文を書き上げました。最後の3ヶ月はロンドンに滞在し、指導教官やクラスメイトに会うことができ、修士論文の添削が時差なくできたことも今振り返ると良い思い出です。また、2022年の7月には大学院の修了式がロンドンで開かれ出席することができました。クラスメイトや先生とも会うことができようやく大学院が終わったと実感できた瞬間でもありました。

大学院修了式(ロータリー学友と)

ロータリープログラムで体験されたご経験で印象に残ることを教えてください。

コロナの影響もあり、ホストクラブであるRC of Battersea Parkの例会に数回日本からオンラインで参加していましたが、イギリスに行ってからは、対面でのクラブ例会に参加できました。コロナ禍で人と会う機会が少なかったため、ロータリアンと対面でお会いできたことはとても嬉しかったですし、クラブの方々も喜んでくれました。例会後の話の中で、同クラブで20年以上も前にホストされた日本人留学生がいたことを知りました。現在は大学の先生をされている高安さんという方で、その方のおかげもありクラブがとても親日的で、お邪魔したときには心から温かく迎え入れてくれました。高安さん(現、成蹊大学法学部教授)とは再会できていませんが、機会があったら是非お会いしてみたいです。また日本のスポンサークラブである昭島RCの安保満元地区財団委員長には大変お世話になりました。帰国のタイミングでまたお会いして活動報告できたらと考えております。

ホストクラブ(RC of Battersea Park)の例会でのバナー交換

ロータリー体験が現在の活動にどのように影響しているとお考えですか?

「自分のやりたい夢を実現していく」を人生のモットーにしており、人とのつながりを大事に活動してきました。特に大学院進学は貴重な経験でした。奨学金について調べて知ったことですが、ロータリーでは、ボランティア経験を重要視して選考されることを知り、私が一生懸命取り組んだ協力隊のボランティア活動を大きく評価していただけたことが大変嬉しかったです。特にロータリーの重点分野に「基本的教育と識字率向上」が、人材育成や教育に重きをおいていることを知り、それがなかったらきっとロータリー財団奨学金に応募しておらず、大学院留学や、ロータリーのご縁もなかったかもしれません。これまでの教員経験、協力隊の活動、大学院留学、現在JICAでの仕事はすべて「教育」で繋がっており、多くの人に支えられ、私の好奇心と専門性を磨いてこられたことに感謝しています。

また、奨学金をいただけて留学できたことは良い意味でプレッシャーでもありました。大学院は1年という短い時間の中で多くのことを学び、たくさんの課題を提出しなければなりませんでした。そのため、いただいている支援に応え、大学院修了後も開発途上国で教育支援に携わるということを実現するために就職活動をしました。現在でも開発途上国で教育支援を続けていくというある種使命感のようなものを持ちつつ、応募書類の中で描いていた理想の自分にー1人でも多くの子供たちが初等教育を受けられるように支援することーに少しでも近づけるよう日々努力をしています。

この先のどのような活動をなされる予定でしょうか?

私自身、どこの機関に所属するなど「枠組み」をあまり重要視しておらず、どの分野で「自分の経験」「専門性」を活かせるかが大事だと考えています。やはり「初等教育」にずっとこれからも関わりたいと思っているので、この分野へ支援できるところで働きたいです。特にウガンダで知った初等教育へのアクセス不足などを肌で感じとり、JICAを始め、NGOや国際機関等での活動も視野に入れて、その分野で自分の能力を存分に発揮したいと考えております。

これからロータリーのプログラムに関わる後輩たちへメッセージをお願いします。

人生は一度しかないので「やりたいように生きる」のが一番いいと思います。自分が興味のあることをやり続けることで仕事や勉強も楽しくなり、付加価値も加えられ、次のステップが見えてきます。私のキャリアは自分の興味・関心分野を軸にキャリア形成してきましたが、10年後を視野に入れつつ、2〜3年のスパンで常に考えつづけてきました。旅行から教員、協力隊からのアフリカ支援、大学院留学から実践に繋げ、ケニアのナイロビで仕事しているわけですが、「何が自分にとっておもしろいか」といつも自問自答しています。ロータリーの財団奨学金を受ける後輩や、JICAの仕事に興味がある後輩たちとも時折話しをするのですが、相談を受けたら「若い時には何がやりたいのかをはっきりさせて、そこに向けて精一杯努力した方が良い」と伝えています。ロータリーの重点分野に関するボランティア経験があり、大学院留学の必要性があれば、ロータリーの奨学金は是非挑戦してください。今も時々仕事しながら大学院で学んだ内容やウガンダの小学校で子供たちに教えていた頃を思い出します。私にはこれからも「アフリカ」「教育」しかないと思うので、その道を私らしく全力で突き進みたいと思います。

協力隊の活動時、スポーツ大会の後のお気に入りの一枚。




鷹觜悠史 Takahashi Yuji
JICA(独立行政法人国際協力機構)ケニア事務所
企画調査員(Project Formulation Advisor)
2020-21年度 ロータリー財団奨学生
スポンサークラブ:東京昭島RC

法政大学(法学部 国際政治学科)卒。玉川大学通信教育部小学校教諭免許取得。英国 ロンドン大学 教育研究所 (IOE, UCL)大学院修了。専門は「教育と国際開発」
東京都公立小学校にて約3年勤務後、青年海外協力隊(小学校教育)としてウガンダ共和国・ジンジャ県の小学校に2年派遣。帰国後JICA青年海外協力隊事務局勤務、大学院留学を経て、現在はJICA ケニア事務所勤務。1987年生まれ。

インタビュアー:中前 緑(東京米山ロータリーEクラブ2750)
ロータリーファミリー支援委員会 委員長:青柳 薫子(東京広尾RC)
Rotary Family Voice 編集長:根岸 大蔵(東京城西RC)
ロータリー財団奨学金制度とは?
国際ロータリー第2750地区ロータリー奨学生の制度は、グローバル補助金を利用し国際ロータリー第2750地区が独自に募集、選考、派遣を行なうものです。奨学生が海外留学を通じ、国際理解と親善を増進し、その国際経験と視野を持って、ロータリーが掲げる7つの重点分野に必要な知識と学力を身に付け、社会人として成長、貢献をしていくことを目的とします。また、ロータリーのネットワークを十分に活用し、ロータリークラブと地域社会と積極的に交流することによって、派遣国と受入国の間の懸け橋となることを目的とします。
詳しくはこちら→

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