ロータリー米山記念奨学金

Make change happen 〜次世代に新しくて、良い事を残すために〜

2006-08年度にロータリー米山記念奨学金プログラムに奨学生として参加し、現在は、母国のラオスで株式会社マージオンを設立し、社会起業家として活躍しているヌイ ワンマニ チャンニャケムさんにお話を聞きました。

現在のお仕事や活動について教えてください。

15年間の日本滞在を終え、結婚、出産を機にラオスに帰国しました。「社会に貢献し、社会と一緒に成長していけるソーシャル・エンタープライズ企業」を目指して2018年に株式会社マージオン(https://mergion.la/)を設立し、ラオスで活動しています。

株式会社マージオンの主な事業は3つあります。1つ目の事業は、「ローカルビジネスコンサルティング」で、日本政府及び民間企業関連プロジェクトをサポートする業務です。具体的にはラオス国内の市場調査や日本企業のラオス進出アドバイザリー業務で、通訳、翻訳、現地コーディネートなどを全て請け負っています。また、これまでに、IT関連から、ラオス酒、備長炭、ハンドクラフト商品、木材技術なども取扱いました。現在は、国際運送に関わるシステム及びハンドクラフト商品の日本からの支援プロジェクトに関わっています。

ラオス南部パクセ県のパクソンにあるカフェパー農園(森コーヒー)の品質を調査

2つ目の事業は、2年前から始めたラオスコーヒー事業の「KAFEPA」です。カフェの運営からコーヒーの製造販売を行なっています。コーヒーの農園調査に関わったことがきっかけで、私の大好きなラオスコーヒーをより多くの方に親しんでほしいと願い、立ち上げました。ようやく念願の日本へ輸出販売できるようになりました。(https://kafepa.com)この活動を地元の障害者支援と結びつけて、コーヒー豆の選別などの作業を障がいのある方に委託したり、また障がいのある方が作った陶器のハンドクラフト食器をカフェで使用したり、販売しています。これ以外にも、私がデザインした洋服や雑貨などのハンドクラフト商品を障害者たちに作ってもらい、カフェで販売しています。
ただ単に製品の作り方を教えるのではなく、それを私たちと一緒に販売し、収益を得る体験をしてもらうなど、経営に直接携わってもらうことで、施設運営や、マネジメント経験を積み、将来のビジネスに役立ててもらいたいと考えています。このコーヒー事業で考えたビジネスモデルこそが、私が一番やりたかった社会的企業の形で、会社の中核となるビジネスで収益を上げ、その収益の一部を社会貢献活動に還元する仕組みです。

ラオスコーヒー事業の「KAFEPA」

3つ目は、CSRプロジェクト「PROJECT V」で、日本の法人パートナーと一緒に始めた若者支援事業で、ラオス側の運営を弊社が担当しています。今後必要となる「英語」、「IT」、「ロジカルシンキング」を高校生に習得してもらいたくて2019年に始めました。ポテンシャル(潜在能力)がある学生を選抜し、現在20名の高校生が参加中です。私が帰国後その差を実感したのがIT環境で、先進国同様、パソコンとインターネット通信ができる環境をラオスの若者に提供し、自発的に学べる場を提供したいと考えました。彼らに社会で戦うのに必要な武器を与え、自由に学べる環境を提供することが大切だと思いました。この武器を使って彼らがどう学ぶのかを試してみたかったのです。学生たちは1ヶ月に一度、ワークショップで一同に集まります。様々な職業体験を持つ先輩たちを招き、話を聞いてもらいます。週1回1−2時間のオンランクラスでIT知識を教えています。それ以外の時間は、学生の主体性を重んじ、どこでも自由に学べるのですが、その学習成果については毎週Facebookのグループで勉強進捗を報告してもらいます。
ラオスの国立学校では、小学校で「英語」を学び始めるのですが、高校生になっても英語で上手く話せないなど、決して有効な教育方法とは言えない状況です。むしろ、学生はYouTubeなどの動画サイトからどんどん吸収し、実力をつけています。「IT」と「ロジカルシンキング」は社会人専門家の力を借り、しっかりとトレーニングを行います。ラオスには、自発に考え・分析・行動できる若者が非常に少ないです。大卒の若者と仕事を一緒にしても、指示通りにしかこなせず、仕事や指示の分析が足りず、その意味や優先順位を決めて仕事ができない人も多いです。この発見は私自身が17歳で日本社会に飛び込み、サバイバル生活を経て、外資系のエリクソンで働いたことや、ロータリーやRYLA(Rotary Youth Leadership Awards)への参加など全ての経験があったから気づけた事で、それらの全ての経験がこのように分析できる今の自分の成長に繋がっていると実感しています。また「ロジカルシンキング」こそが、若い世代から身につけるべきものだと感じ、現在のプログラム参加対象者は大学進学前に有利な15歳で高校2年生対象に絞っています。プログラムの参加学生たちは 経済的に支援が必要な、優秀な生徒が、ラオス全国から約20名集めました。第1期の20名が終了し、これから第2期の20名学生を募集が始まるところです。第2期は、プログラムをより改善して学生たちがともに刺激し合える環境づくりを目指しています。

日本の法人パートナーと一緒に始めた若者支援事業「PROJECT V」

ロータリープログラムに応募したきっかけを教えてください。

15歳の時に日本に憧れ、姉が留学していた日本に18歳の時に留学で来日しました。当時ラオスからの留学は日本が一番試験教科も多く難しいと言われていました。アジア最先端の技術力を持つ日本で、ITや技術を学びたくて留学を決めチャレンジしました。来日後1年間は東京の日本語学校に通い、その後、徳島県の阿南工業高等専門学校に進学し、電気通信大学に進学したのですが、文部科学省奨学金が終了し、大学院進学を実現するために出会えたのが、留学生の間で人気があったロータリーの米山記念奨学金でした。2年間の支援が受けられること、学生を大事にする温かな雰囲気があるカウンセラー制度など私にとって魅力的で大学を通じての応募に至りました。

徳島県阿南市長より3年間の高専時代の国際交流活動に対して感謝状をいただきました。

ロータリーでの体験で印象に残ることを教えてください。

印象に残ったのは、多くの素晴らしい経営者の方々と一緒に活動できた事!ビジネス上の優秀な業績を持つだけでなく、人間性も素晴らしく、人々を助けたい気持ち、世の中に良い事をしたい気持ちを持っている方々との出会いです。

米山記念奨学生時代には東京府中ロータリークラブにお世話になりました。カウンセラーは松村様でした。私の友人のカウンセラーである東京立川RC 日野様も私に大変良くしてくれました。今でも私の考え方に影響を及ぼしているのが、ロータリアンたちの「人々、社会、世界のために良い事をするロータリー精神」、そして私たち留学生に対しても分け隔てないおもてなしのサービス精神、日本のトップクラスのサービスが体験できたことです。これらの体験は今の自信に大きく繋がっています。ラオスで仕事をしている時に、それらの体験や価値基準があることで、今自分が仕事上人とお付き合いする時の判断ベースになっている気がします。
さらにロータリーと関わったことで、「知恵と心が広がり」、「質がある人間として成長できた」と感じます。その影響を受け「人々、社会、世界のためにできる事を考える」人になりました。社会起業家として起業できたきっかけは、ラオスに帰国する際に、東京米山友愛ロータリークラブの拡大補佐吉井栄様より、日本人作家渡邊奈々氏が書いた「チェンジメーカー〜社会起業家が世の中を変える」という書籍をプレゼントしてくれました事も大きく影響を受けております。そこで始めてそのモデルを知り、色々学んでおります。ラオス若者支援、女性支援、障害者支援、様々な私の中のイノベーションはそうやって生まれました。 きっと私のように考える若者がいると思います。そんな彼らの参考例になったら嬉しいです。
今でもロータリーとの関わりは続けており、以前在籍していた東京米山友愛ロータリークラブとは、3年前にロータリー財団の地区補助金プロジェクトとし「ラオス障害者支援プロジェクト」が実現でき、今でも合同支援活動は続いています。
最初は学生だったので、例会に参加するのも、企業経営者であるロータリアンの方とお会いする時も、とても緊張した事を覚えております。当日の私はとても硬かったと思います。ロータリアンは奨学生の私を歓迎してくれ、とても優しく一流のおもてなしでお迎えてしてくれたので、大変居心地が良かったです。クラブ外でも地区米山記念奨学委員会の歴代委員長の方々、東京米山友愛RCの関博子様、中野陽一様、吉井栄様が多彩な米山イベントを企画いただき、奨学生たちと一緒に参加したことも、今の私の自信につながっています。ロータリアンに共通して言えることは、「誰かのため、社会のためを考えていて、人々、社会に良いことを考えている人」ということです。私のようなラオスから来た奨学生、若者にも良いことをしようと思って接してくれた姿がとても印象的でした。

東京米山友愛ロータリークラブ関係者とプロジェクトメンバーたちと

これからロータリーのプログラムに関わる後輩たちへメッセージをお願いします。

心を開いて、奨学生の生活を楽しんで得られたチャンスを有効に活用し、たくさんの仲間とネットワークを作る事をおすすめします。時間が許す限り、ロータリーの活動へ参加し様々の経験を得て欲しい、必ず将来どこかでその経験が活かせます。とにかくロータリアンの方々とたくさん交流してください。今このインタビューで自分自身の過去を振り返って、日本滞在中は友人たちと友人づくりを目的に、色々パーティやイベントを企画しましたが、当時は自分の心がそれほどまだオープンでなかったと思います。今その時代に戻れるならば、もっと心をオープンに、得られた全てのチャンスをもっと有効に活用したいです。

最後に将来の夢を教えてください。

ロータリーのプログラムを通じて「自分がしてほしいことを相手にしてあげなさい」という理念を学びました。今のラオスに足りないものを与えたいと思います。
会社名のMergionもMerge(入混じる、合併する、融合する)という英単語の造語で、ある分野に特定せずに色々な分野が自由に組み合わさってその結果、新しくできるものという意味で決めました。何か次世代に新しいもの(人、モノ、サービスなど)を残したいです。私自身は理系の人間ですが、振り返ると徳島に住んだ高専時代から国際交流や人権に興味を持ち続けており、今では人材育成に大変興味があります。ラオスに限らず、どこの国でも、企業でも、優秀な人材が必要です。学業の成績がいくら優秀でもロジカル的に考え、ロジカル的に話すそして自立した行動ができないと業務ができません。 私自身もさまざまな壁にぶつかりました。企業が成長するためには人材が不可欠です。優秀な人材を育てることは、自分のために、企業のために、社会、そして国、世界のためになると信じています。さらに私が理想とする優秀な人材像としては、「もらうだけでなく、相手に与えることができる」資質です。ロータリーで学んだ奉仕の精神です。そのような人材が将来一人でも多く育ち、社会に巣立ち、世の中ために貢献できる姿を見るのが私の将来の夢です。


ヌイ ワンマニ チャンニャケム
株式会社マージオン 代表取締役 ITコンサルタント

2006-2008年度 米山記念奨学生
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ラオス・ビエンチャン出身。徳島県阿南工業高等専門学校、電気通信大学大学院卒業。
エリクソンジャパン株式会社勤務。ラオス帰国後、フリーランスコンサルタント業務をはじめ、2018年に株式会社マージオンを設立。

インタビュアー:中前 緑(東京米山ロータリーEクラブ2750)
ロータリーファミリー支援委員会 委員長:青柳 薫子(東京広尾RC)
Rotary Family Voice 編集長:根岸 大蔵(東京城西RC)

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