ロータリー財団奨学金

勉強したいと思うすべての人が勉強を続けられる世界の実現〜女子教育が地域社会を変える〜

2020-21年度にロータリー財団奨学生として、英国サセックス大学(University of Sussex)に派遣され、現在は、UNICEFパプアニューギニアでEducation officerとして活動している松川聡さんにお話を伺いました。

現在のお仕事や活動についてお聞かせください。

イギリス大学院在籍中に申し込んだ、「広島平和構築人材育成センタープライマリーコース」に参加しプログラムアソシエイトとして活動しております。これは、外務省の委託を受けて広島平和構築人材育成センターが運営している平和構築と開発におけるグローバル人材育成事業です。5週間の国内研修とUNボランティアとしての1年間の海外派遣で構成されており、日本人参加者12名、外国人参加者10名の仲間と学んでいます。残念ながらコロナの影響で外国人参加者と外国人講師が来日できず、オンラインで参加しています。英国サセックス大学院(University of Sussex)で「社会の慣習や価値観と共存する女子教育の普及」について学びながら国際機関で働くことを考え、UNボランティアとして国際機関で経験を積むことができる、この魅力的なプログラムに参加を決めました。そして研修後は希望が叶いUNICEFパプアニューギニアにEducation officerとして3月より赴任が決まりました。初めての国で仕事が始まりますが、新しい環境に対する期待と不安な気持ちが入り混じっています。

広島平和構築人材育成センタープライマリーコース研修での写真

ロータリー財団奨学金のプログラムに応募したきっかけを教えてください。

早稲田大学卒業後、プリンスホテル勤務を経て、前職では国際NGO 特定非営利活動法人ADRA Japanで、ミャンマーのカレン州で教育支援事業のプロジェクトマネージャーを経験しました。ミャンマーの紛争地域で30校近くの学校建設に従事し、その体験を通じて「女性が元気なコミュニティはいつも活気がある」と感じるようになりました。その一方では女性であるが故に、教育が受けられず、対等ではないという課題も目にしてきました。この課題に気づき、「教育」が地域社会の発展につながることに確信し、学びを更に深めるべく大学院留学を決意しました。イギリスは開発学発祥の地として有名で、私が進学したサセックス大学院には著名な教授が多く、また世界中から集まった現場経験を持つ学生とともに学べるということが魅力で進学先を決めました。前職NGOの先輩が既にロータリー財団奨学金で海外留学経験者でしたので話を聞き、そのプログラムに興味を持ち、ロータリー財団奨学金プログラムの応募に至りました。

私が「教育と開発」に興味をもつきっかけとなった出来事が二つあります。一つ目は高校時代に奨学金を獲得するために猛勉強したガリ勉体験です。そこで勉強というのは人生の選択肢を増やし、道を切り開くものであると実感し、教育の可能性を強く感じました。二つ目は早稲田大学在籍中、学生団体に所属し、ラオスの小学校でボランティアの経験です。衛生管理を普及すべく手洗いの歌をラオス語で子供たちと一緒に歌い、理科の実験を一緒にするのですが、ラオスの子供たちのキラキラした瞳と学ぶことの貪欲さに、教員免許をもたない大学生の自分の心が大きく動かされました。自分にも何かこの分野でできることがあると思い、将来は教育と開発の道に進もうと決心しました。そして私のテーマである「女性と教育」に興味を持ったのは、前職で出会ったミャンマーの女性校長との出会いでした。女性独特のしなやかさ、物事の捉え方、傾聴スタイル、周りを上手く巻き込んで物事を進める調整交渉力など、女性の持つパワーを感じました。女性の溢れるポテンシャルと、女子教育の大切さを感じたのです。女性の力強さを感じるようになったのは、私の母の影響も大きいと感じています。母は忍耐の人であり、また他人への奉仕の心に溢れている人です。私が感じたように教育がきちんと受けられる女性が増えることで、地域社会を元気に活気づけることができると確信しております。

NGO ADRA ミャンマーでの教育支援活動
大学時代に参加したボランティアでラオスの子供たち

ロータリー財団奨学金のプログラムでの体験で印象に残っていることを教えてください。

実は財団奨学金選考には合格したのですが、大学の開講もコロナ影響下で不確実な状況でした。そんな中渡英し受け入れ先として決定していた第1145地区の現地担当者がコロナで急逝され、私の渡英が難しくなったところ、ロータリー地区財団委員会の森田彰奨学委員長を始め、委員会の皆様が受け入れ先を一生懸命探していただき、「イーストボーンAMロータリークラブ」が私の受け入れを認めてくれました。決まった時には安堵と感謝の気持ちで一杯になりました。後に同期の奨学生は入国も叶わず、渡航進学が延期になった学生もいると聞きました。準備が整い渡英し、通学1年間のうち前半は対面式の授業で出席できたのですが、コロナの影響で後半の授業は完全オンラインとなってしまいました。90分毎に休憩を挟み1コマ3時間を寮の部屋からパソコンで受講するのですが、対面式と違い、集中力を保つことが大変で精神的にも厳しかったです。しかし海外でロックダウンを経験できたことは良い体験だったと思います。1週間先の見通しもつかずこの先どうなるかわからない中、自分の行動を決めて慎重に進めなければなかった体験は、きっと今後の人生に役に立つことだと思いました。イギリスでは2回目のロックダウン中でしたので、スーパーに買い物に出かけるなど、少しの外出は可能でした。またホストロータリークラブのロータリアンが頻繁に私に連絡ととってくれたことで、心理的に助けられました。自分はどちらかというと孤独に強い方だとは思いますが、ロータリアンや同じ寮の友人たちと話せたことで、コロナ禍でも塞ぎこまずに帰国まで生活できたのではないかと感じます。私が住んでいたブライトンという町は移民や移住者が多い町です。LGBTQの大きなコミュニティもあり、多様性を受け入れ、自分と違う人にとても寛容でイギリス人以外にもフレンドリーでした。幸いなことに、アジア人差別などといった怖い体験などはありませんでした。私が渡英してから、ホストクラブの例会は対面式からオンラインに変わり月2回くらいの頻度で開催されていましたが、私もよく参加させていただきました。これもとても良い思い出です。

ロータリー体験が現在の活動にどのように影響しているとお考えですか?具体例があれば教えてください。また今ロータリーとの関わりをもって活動をされていることがあればお聞かせください。

実は財団奨学金を受けるために、できるだけ多くの人に会い話を聞くなど、ロータリーについてかなり事前調査をしていたのですが、正直、明確なロータリーのイメージがわかないまま、渡英しました。ところが、実際にイギリスのロータリアンと接すると、皆さん本当に気さくでフレンドリーな方が多く、また純粋に奉仕の心を持った人たちの集まりだと知りました。私も積極的にロータリアンと交流や関わりにつとめました。今でも思い出に残るイベントですが、地元の二千人くらいが参加するクラブのチャリティイベント「LIGHTHOUSEチャレンジ」に現地パトロールとして参加できたのはとても良い体験でした。そして、光栄なことに帰国前に奉仕活動の参加と例会の参加を認めていただき、今ではイーストボーンAMロータリークラブの名誉会員として交流を続けております。

クラブ会長、幹事、国際交流担当のホストクラブのロータリアンたちが携帯アプリクラブ会長、幹事、国際交流担当のホストクラブのロータリアンたちが携帯アプリWhatsappで「チーム聡グループ」を作り、私の面倒をみてくれました。滞在中、コロナ禍で私が孤独になっていないか、食事はどうしているかなど頻繁に連絡をとってくれたのが、大変心強かったです。イギリス滞在を終える頃、幹事であるマイクご夫妻と、ほか2世帯のロータリアンの方の自宅(計3世帯)にホームステイさせていただき、貴重な心あたたまる体験をさせていただきました。今でもご家族とは連絡を取り合っております。クリスマスには、ご夫妻の他ロータリアンも参加しZOOMで再会し近況報告もできました。帰国後もこうやって繋がっていられることを嬉しく思っております。

クラブチャリティイベントに参加した風景 (地区雑誌にも掲載されました。)
クラブ幹事Mike&Sueご夫妻と

これからロータリープログラムに関わる後輩たちへメッセージをお願いします。

ロータリアンは味方です。純粋に夢の実現を応援してくれる人の集まりです。決してプレッシャーに感じず、時折、近況報告をするなどして、継続して感謝の気持ちをお伝えしていければ双方にとって良い関係が築いていけるものだと確信しております。私の場合は、出発前と帰国後に東京調布むらさきロータリークラブの例会に参加し、私の近況をお話しさせていただきました。そして今、私は地区財団学友会の幹事を務めております。財団学友としてロータリーと繋がりを持ち続けていけたらと思います。

東京調布むらさきロータリークラブ帰国報告会の様子

最後に将来の夢を教えてください。

私の夢は、国際協力や支援の仕事から失業することです。世界から国際協力や支援が不要になることが理想です。

また、もう一つの夢は、「勉強したいと思うすべての人が勉強を続けられる世界の実現」です。一人の力ではなしえないことですが、そのために私の専門とする教育分野において国際協力の立場で、教育開発のプロフェッショナルとして出来ることを全力で続けたいと思います。


 

松川 聡 Matsukawa Satoshi
2020-21年度ロータリー財団奨学生
スポンサークラブ:東京調布むらさきRC

早稲田大学で異文化コミュニケーション研究を専攻し、教育への価値観について研究を行う。在学中、ラオスの小学校で教育支援のボランティア活動に携わる。卒業後、都内ホテルで勤務。特定非営利法人ADRA Japanでミャンマー教育支援事業プロジェクトを担当。
現在は 広島平和構築人材育成センタープライマリーコース研修を受け、2022年3月よりUNICEFパプアニューギニアでEducation Officerとして赴任。

インタビュアー:中前 緑(東京米山ロータリーEクラブ2750)
ロータリーファミリー支援委員会 委員長:青柳 薫子(東京広尾RC)
Rotary Family Voice 編集長:根岸 大蔵(東京城西RC)
ロータリー財団奨学金制度とは?
国際ロータリー第2750地区ロータリー奨学生の制度は、グローバル補助金を利用し国際ロータリー第2750地区が独自に募集、選考、派遣を行なうものです。奨学生が海外留学を通じ、国際理解と親善を増進し、その国際経験と視野を持って、ロータリーが掲げる7つの重点分野に必要な知識と学力を身に付け、社会人として成長、貢献をしていくことを目的とします。また、ロータリーのネットワークを十分に活用し、ロータリークラブと地域社会と積極的に交流することによって、派遣国と受入国の間の懸け橋となることを目的とします。
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広島平和構築人材育成センターとは?
広島平和構築人材は、平和構築・開発分野での人材育成を目的として、外務省が実施している人材育成事業です。 外務省の委託を受けて広島平和構築人材育成センター(Hiroshima Peacebuilders Center: HPC)が事業を運営しています。
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特定非営利法人ADRA Japanとは?
ADRA Japanは、途上国や災害被災地において開発支援や緊急支援活動を行なう国際NGOです。世界約120か国のADRA支部と連携し、人種・宗教・政治の区別なく、自然災害や紛争の被災者、医療を必要としている人々、教育を受けられない女性や子どもたちなどに、自立を助ける支援や緊急支援を届けています。
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