ロータリー財団奨学金

コミュニティを通じた、若者のエンパワメント

2020年にオープンした「SHIMOKITA COLLEGE」。社会人、大学生、高校生が「共に暮らしながら学ぶ」という全く新しい日本教育のかたちを提言している。そのSHIMOKITA COLLEGEの立ち上げに参画した水上さん。大学時代の原点、ロータリー財団奨学生としての留学からの学び、そして立ち上げたSHIMOKITA COLLEGEについて聞きました。

海外の大学院進学のきっかけは?

最初の海外経験は、英国スコットランドのエディンバラ大学への交換留学です。国際関係やジェンダー等の授業がきっかけで、ケニアに3週間ほど滞在しました。ケニアでは、マサイ族の女性にインタビューする機会に恵まれ、「現地のコミュニティの慣習により、女子が教育を受けられない」という課題を知り、衝撃を受けました。この課題の解決に人生を費やしたいと感じ、教育、コミュニティ、そしてジェンダー等に関心を持つようになりました。
帰国後、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチでインターンをしました。国際NGOや国連で働くためには、英語力はもちろんのこと、学位として修士が必要であると知り、将来、人権やジェンダーの分野で働きたいと思いっていた私は、英国大学院への進学を志しました。
ただ、家庭の事情で奨学金が必要でした。フェイスブックに投稿したところ、慶應義塾大学の後輩が、東京中央ロータリークラブ元会長の太田嘉正さんを紹介してくれました。とても優しく熱心で面倒見の良い方で、ロータリーの事を色々教えていただき、ロータリー財団のグローバル奨学金への応募を応援していただきました。今でも太田さんにはお会いし、アドバイスを頂いています。

London School of Economics(ロンドン政治経済学院)で特に印象に残っている事は何ですか?

私の指導教官はトルコ出身の女性の方でした。彼女からクリティカルシンキング(批判的思考)を徹底的に学びました。植民地支配の反省から構築されたポスト植民地主義理論を学び、国連に対して批判的に考察する授業に参加しました。人権侵害の歴史を紐解くと、権力側が虐殺を正当化した事例がいくつもあり、起きていること、見えているものを鵜呑みにせず、多角的に考えることが重要だと学びました。
生活面では、イタリア人の方とルームシェアをしました。イタリア人は陽気で大らかなイメージがあったのですが、その方は真面目で神経質な方で、すれ違いが何度となくありました。彼女を、自分の中にあるステレオタイプで観ていたことが原因だったと思います。様々な属性によって、個人のアイデンティティがつくられるため、一つの属性へのステレオタイプで人を判断するのは良くないと、共同生活を通じて気づきました。

LSE(London School of Economics)の友人たちと。

LSE卒業後のキャリアを教えてください。

新卒で独立行政法人国際協力機構(JICA)で2年半ほど働いたことは私にとって大きな財産になりました。国連や国際NGOは新卒ではなかなか入れないため、国際協力の全体像を知ることができるJICAを選びました。
最貧国といわれているマラウイ共和国のカントリーオフィサーを務め、現地にも3カ月ほど滞在しました。マラウイは元々コミュニティの影響力が強い所で、例えば地方ですごく勉強が出来る子がいれば、首都に住む親戚に預け教育の質が高い学校で勉強を受けさせるなど、コミュニティ間での相互扶助が機能しています。コミュニティづくりを突き詰めたいと思うきっかけとなりました。

JICA(独立行政法人国際協力機構)マラウイ共和国にて。

SHIMOKITA COLLEGEを設立するためHLABに転職したきっかけは?

HLABは、私が学生時代にかなり力を注いだ活動でした。HLABは、10年前から、海外大学から学生を招き、高校生向けの一週間の合宿型サマースクールを開催しています。2013年のサマースクールは運営委員として参画しましたが、2014年に徳島県知事からサマースクールを開催してほしいとお声がけを頂き、徳島でゼロからの立ち上げを任されました。徳島県教育委員会との交渉から協力者の人集め、大学生の運営委員の募集、高校生への広報まで全てやりました。

今考えると、この立ち上げは起業の要素もあり、たまらなく楽しかったです。あの頃の苦労や達成感は私の財産です。結果的に、サマースクールは大成功し、県のプロジェクトとして5年間続くことになりました。自分が一から企画して創ったサマースクールが後輩達に受け継がれることに、やりがいを感じました。
「もしコミュニティをやりたいのならHLABに戻ってこないか?」と、声をかけてもらったのがきっかけです。私もいつかはHLABに恩返ししたいと思っており、SHIMOKITA COLLEGEの立ち上げの話もあったため、立ち上げを成功させるという目標を持ち、再度参画しました。

当時サマースクールを立ち上げた仲間たちと参加した阿波おどり。

SHIMOKITA COLLEGEで大切にしている事を教えてください

SHIMOKITA COLLEGEは、HLABの理念である「ダイバーシティを尊重し、多様な人が住んでお互いの違いから学び合える環境を創ること」を大切にしています。教育プログラムを企画し、それを色々なパートナー企業と実施することが私のミッションでした。

パートナー企業の三井物産さんは、カレッジが出来る1年半前から、興味を持ってくださり、課題解決型のプロジェクトを実施しました。社員の皆様がビジネス上直面した課題を提供してくれ、ヘルスケアや、まちづくり、石油の売買やデジタルトランスフォメーションなどの課題を解決する議論を通じて、参加者は商社でのビジネスの面白さを目の当たりにしました。

実は、このプロジェクトに関わった三井物産の社員の皆様は、HLABのサマースクールのOBが多くいました。サマースクールからスタートしたHLABの財産である「人」のおかげで成功したと言っても過言ではありません。これは、まさしくコミュニティーの力だと思います。HLABのために何かしたいという想いをOBとして持ってくれたため、気合を入れてプログラムを一緒につくってくれました。人事部の方も、「人材育成の意味でも、三井物産を知ってもらうとの意味でも、素晴らしいイベントだった」とフィードバックを頂きました。

三井物産の社員からフィードバックを受ける学生。

また、SHIMOKITA COLLEGEでは、入居者が主体的にカレッジを運営することを大切にしています。ときには、白熱した議論になりますが、それこそが互いの違いから学び会える機会だと思っています。すべてが上手くいかなくても、色々な対話を経て、壁にぶつかる自由を含めて、このカレッジを一緒に創ることを大事にしています。HLABの考える学びとは、先生から生徒が一方的に学ぶのではなく、お互いから学びあう「ピア・メンターシップ」です。この「ピア・メンターシップ」の設計が重要です。

カレッジの入居者がお互いに学ぶだけでなく、SHIMOKITA COLLEGEを拠点(ハブ)にして、魅力的な経験を持つ様々な大人が来て、カレッジの入居者が学び、また大人も勉強して帰る。世代、経験など様々なボーダーを超えた交流が生まれることがとても大切です。
実際、入居している大学生は色々な学校から来ています。80名中30名が海外の大学で勉強していて、今はコロナの影響で日本からオンラインで授業を受けています。授業があるときは、夜中の2時頃まで起きて授業を受けていたりします。SHIMOKITA COLLEGEは東京・下北沢にありながら、世界と繋がり、企業や地域ともつながり、ボーダーを超えた場所になっていて、当初思っていた以上のコミュニティになっていると感じます。入社した当初は様々な困難がありましたが、企画書上のアイディアにすぎなかったものが、すごく良い形で出来上がったと安堵しています(笑)。

SHIMOKITA COLLEGEの入学式の様子。
※撮影時のみマスクを外しています。

最後に、将来の夢を教えてください

私自身が、SHIMOKITA COLLEGEに住む方々から刺激されています。何より、自分より10歳も年下の方々が、自分の夢に向かって勉強したり、インターンに励むなど、昼夜問わず頑張ってるんですね。

HLABに参画した時は、自分が本当にやりたい事が何かを知りたい、という想いもありましたが、入居者の方々のおかげで、自分の学生時代の志を思い出すことができました。私の原点はケニアでの経験であり、人生をかけてジェンダーや若者の支援をしたいという事が明確になりました。

今年30歳になりますが、これからの夢としては、自分や周りの努力だけでは乗り越えられないほどに困っている途上国の若者たちを、コミュニティを通じて支援したいです。将来何になろうか悩んでいたり、自分が何を勉強すればいいか迷っている若者や、社会から色々なプレッシャーを受ける若い女性の進路選択の支援を途上国でやりたいという自分の人生の目標が、ようやくクリアになってきました。

色々な支援の方法がありますが、例えばHLABでは、ユニクロの柳井社長の財団を通じて奨学金の支援をしています。そして、情報も大切だと思っています。インターネットで得られない生の情報は、人の心を動かすと思います。色々な人からの情報を得られる場所、そして切磋琢磨できる仲間がいると人って頑張れるのかなと。将来的には、より恵まれない途上国のフィールドでの支援をしたいと志を新たにしています。


 

水上 友理恵 Yurie Mizukami
2014-15年度 ロータリー財団奨学生
スポンサークラブ:東京中央RC

1991年生まれ。慶應義塾大学在学中に英エディンバラ大学留学・ケニア訪問をきっかけに、コミュニティと教育に関心を持つ。財団奨学生としてロンドンスクール・オブ・エコ ノミクス大学院社会学科を修了後、JICAアフリカ部で勤務し、マラウイ共和国カントリー・オフィサーとして南部アフリカのインフラ開発に従事後、WeWorkに てコミュニティマネジメントに従事。2019年4月よりHLABへ再度参画し、パートナーシップ構築とプログラム開発を主にレジデンシャル・カレッジ事業を手がけ、2020年12月SHIMOKITA COLLEGEを開業。

インタビュアー:南條 勉(東京あけぼのRC)
ロータリーファミリー支援委員会 委員長:青柳 薫子(東京広尾RC)
Rotary Family Voice 編集長:根岸 大蔵(東京城西RC)
ロータリー財団奨学金制度とは?
国際ロータリー第2750地区ロータリー奨学生の制度は、グローバル補助金を利用し国際ロータリー第2750地区が独自に募集、選考、派遣を行なうものです。奨学生が海外留学を通じ、国際理解と親善を増進し、その国際経験と視野を持って、ロータリーが掲げる7つの重点分野に必要な知識と学力を身に付け、社会人として成長、貢献をしていくことを目的とします。また、ロータリーのネットワークを十分に活用し、ロータリークラブと地域社会と積極的に交流することによって、派遣国と受入国の間の懸け橋となることを目的とします。
詳しくはこちら→

HLAB(エイチラボ)とは?
HLABは、将来の不確実性と多様な選択肢が混在する現代において従来の「学校」の形を超えた新たな教育を提唱します。HLABの「H」は、「学寮(カレッジ)生活を中心としたリベラル・アーツ教育」というHLABのコンセプトから、人的交流の「Hub(ハブ)」となる「House(寮) 」を意味しています。また「LAB」は、「Liberal Arts beyond Borders」(ボーダーを越えるリベラル・アーツ)の頭文字です。世代や国籍、分野を越えて互いから学ぶリベラル・アーツ教育を提供するというHLABのミッションを表すとともに、新たな教育の形を日本で実現するための実験の場(ラボ)になって貰えればという思いが込められています。
詳しくはこちら→

おすすめ