2015-17年度にロータリー米山記念奨学金プログラムに奨学生として参加し、現在は、早稲田大学国際学術院・国際教養学部 助教、早稲田大学カタールチェアのメンバーとして社会科学分野の研究に取り組んでいる沈 雨香(しん うひゃん)さんにお話を伺いました。
現職では、どのような研究に取り組んでいますか?
2015-17年度にロータリー米山記念奨学金プログラムに奨学生として参加し、現在は、早稲田大学国際学術院・国際教養学部 助教、早稲田大学カタールチェアのメンバーとして社会科学分野の研究に取り組んでいる沈 雨香(しん うひゃん)さんにお話を伺いました。
早稲田大学国際学術院国際教養学部と早稲田大学教育学部の授業を受け持つほか、中東湾岸諸国における高等教育の現状とその社会的役割を中心に、教育を取り巻く人々の意識と行動、進路選択とジェンダーなどのトピックにも取り組んでいます。同時に、カタール大学との共同事業であるカタールチェアプロジェクトの一員として、早稲田大学およびカタール大学が有する専門性の共有、並びにイスラーム文明に関する言語・文化・宗教・歴史・政治・経済・国際関係等の学際的分野における研究活動の支援を通じ、イスラーム文化の様々な側面に関する研究の強化に関わっています。
カタールチェアプロジェクトは、2019年1月にスタートし10年間でカタール大学から650万ドルを拠出し、早稲田大学から650万ドル相当の役務・施設等を拠出します。その目的は、カタール国と日本国の友好と連携の精神を醸成し、イスラーム地域やその地域の人々や遺産に関する理解や知見の深化に寄与することを目指します。メンバーは3名で、チェアプロフェッサー、准教授、助教の各1名が主となり、早稲田大学およびカタール大学の関連分野の教員が密に連携しながら事業を推進します。中東湾岸諸国にとって、日本は良い関係であり、リスクが低く、政治的にもバランスの取れた国と認識されていて、友好的に事業を推進するのに適していると判断されたと思います。
来日のきっかけや経緯について教えてください。
韓国で高校から大学へ進学し、休みにバックパッカーの経験をした時、日本語に出会いました。もっと日本語を身につけようと来日し、日本語学校に通っているうち早稲田大学教育学部へ入学することができました。その後、同大学の教育学研究科にて修士(教育学)、博士(教育学)を取得しました。早稲田大学での学びの過程で、中東の湾岸諸国について、より一層の興味、深く理解したいという欲求が生まれたことで今に至っていると思います。
博士論文は、中東湾岸諸国女性の高学歴化に焦点を当て、彼女らの教育に対する意識と行動および将来展望を量的・質的研究手法を用いて調査・分析し、その進学動機と湾岸社会における高等教育の社会的側面を考察したものです。博士後期課程在学中には、アラブ首長国連邦のSheikh Saud bin Saqr Al Qasimi Foundation for Policy Research、ならびにサウジアラビア王国のKing Faisal Center for Research and Islamic Studiesにて客員研究員として湾岸地域でのフィールドワークを行ってきました。
具体的にはどのような研究をされているのでしょうか?
例えば、湾岸諸国の高等教育について、サウジアラビアの大学進学率は70%を超えており、かつ女性の進学率が男性よりも高くなっています。ですが、就業率は男性が80%に対し、女性は30%にまで落ちてしまう。それはなぜかって考えてみる、その原因となる社会的な背景や人々の認識、実際の生活を調べ、その社会ならではのコンテクストを読み解く研究をしています。
そこから見えてくるのは、日本とは違う価値観を持った社会、人々の幸福感の相違です。まず大学や学位に対して、日本では就業してからの収入に繋げて価値を判断するのが一般的と言えます。でも豊富な天然資源に恵まれ、福祉が充実した湾岸諸国では、自己成長や精神的な充実、知的好奇心や向上心を満たす自己達成の手段としての意味があるのです。学歴に拘わらず十分な収入を得られる環境が、そうした違いを生み出す一因となっていると考えられます。
そんな研究に日々取り組みながら、カタールチェアの一員としてカタールに焦点を当てた研究も行っています。
ロータリーと関わって感じたこと、後輩へメッセージなどがあれば教えてください。
奨学生としての2年間、本当に良くしていただき、とても感謝しています。卓話等でお会いし、話したロータリアンは皆さま優しく、視野が広い方が多かったです。自分の世界が広がる感覚、新鮮な驚きや知的な刺激を受けました。ロータリアンの皆さまのサポートのおかげで、ソウルで開かれたロータリー世界大会に参加するなど充実した時間を過ごし、貴重な関わりを持つことができました。今後に続く後輩の方々にも、ロータリークラブでの出会いや経験を、自己を高め、視野を拡げるきっかけにして欲しいです。
ご自身の将来の展望などがあれば教えてください。
国や地域も、人間と同じで良い所も悪い所も併せ持っていて、それらを踏まえ交流することで、友好で有益な関係を築くことができると確信しています。よく分からないから悪く想像してしまったり、イメージだけで拒絶したり、そんなことが無いように、正しい情報で理解し、判断することの手助けをしていきたいと思います。社会科学分野の研究の拡充をもって、日本が中東アジア地域で、ハブの役割となるよう尽力します。
個人としては、楽しく年を重ね、面白いオバさんとして、「意味のある話をする人」になりたいと思っています。その年齢に応じた新しい発見があると思っているので、ウェルカムで歳を取っていきたいです。
取材後記
全身から滲み出るバイタリティー、生命エネルギーを感じる女性でした。お話を伺っていて、聞いている私が若返っていくような感覚すらありました。とても行動力のある方で、話しの引き出しもたくさんあるし楽しかったです。
豊かな実経験に基づくお話は、説得力があり、テンポの良さと相まって、もっと聞いてみたいと感じずにはいられない内容でした。機会があれば、今回ご紹介できなかった中東湾岸諸国の美味しい食べ物のこともお伝え出来ればなぁと思います。カタールは、2022年サッカーワールドカップもありますし、シャワルマというお肉料理、美味しいみたいです。
沈 雨香(しん うひゃん) Woohyang Chloe Sim 2015-17年度 米山記念奨学生 スポンサークラブ:東京iシティロータリークラブ 博士(教育学)。早稲田大学教育・総合科学学術院/教育学部 助手を経て、現在は早稲田大学国際学術院/国際教養学部 助教、早稲田大学カタールチェア メンバー。1983年生まれ、韓国出身、2021年4月より現職。 インタビュアー:鈴木 豪(東京八王子北RC) ロータリーファミリー支援委員会 委員長:青柳 薫子(東京広尾RC) Rotary Family Voice 編集長:根岸 大蔵(東京城西RC) |